ROEの高低と株の利回りには相関関係が無い
投資対象を選ぶ基準の一つに「ROE」があります。ROEは「Return on Equity」の略で、日本語に直すと株主資本利益率となります。
ROEが高いことは、株主が投資した資金を効率的に使って利益を上げていることになります。ゆえに一般的には、ROEが高い企業ほど投資対象として有望とされています。
しかし、この一般常識とは相反するデータがあります。「ウォール街で勝つ法則
(ジェームズ・オショーネシー著)」では、1951〜1996年の間、ROEを10分位に分けた場合(※注)の収益率データが計算されています。それによると、ROEが高い企業のほうがパフォーマンスが良いという結果にはならず、ROEの高低と株価には何の相関も無いという、驚きの結果がでています。
ROEの10分位パフォーマンス(1951〜1996年) |
ROE分類 |
年率リターン |
標準偏差
(リスク) |
累積金額
(元本1万ドル) |
最大 |
11.32% |
21.0% |
$1.246.113 |
2番目 |
14.52% |
19.4% |
$4.471.608 |
3番目 |
13.80% |
18.3% |
$3.366.313 |
4番目 |
11.11% |
16.8% |
$1.145.818 |
5番目 |
11.05% |
17.3% |
$1.118.998 |
6番目 |
12.31% |
17.4% |
$1.855.489 |
7番目 |
10.90% |
16.7% |
$1.051.858 |
8番目 |
12.12% |
16.7% |
$1.719.019 |
9番目 |
10.88% |
17.0% |
$1.041.370 |
最低 |
12.27% |
17.6% |
$1.830.812 |
全体平均 |
11.92% |
16.5% |
$1.590.667 |
特に最もROEが高かったグループは、全体平均よりも低いリターンにも関わらず、最もリスクが高くなるなど、惨々たる結果でした。低PER銘柄や高配当銘柄では、指数の高低と株価には明確に相関関係がありましたので、それらと比べても相関の無さは明らかです。
結果が思わしくなかった理由は、企業は「株主資本」だけでなく「借入金(他人資本)」も使って、総合的に収益拡大を図るからです。
ROEが高いというのは、借入金が多く自己資本比率が低いことになります。自己資本比率が高いことは、経営の安定性には寄与しますが、企業の成長性にはプラスとは限りません。しかし、企業の安全性(経営破綻の確率の低さ)は、自己資本比率が高い方が優秀です。
企業の資金繰りとしては、デット(借入金)よりもエクイティ(株式発行)の方が、長期的にみればより負担が大きくなるのが一般的です。自己資本比率が低い(=借入金が多い)ほど「負債のレバレッジ効果」が働くので、増益できた際の株価へのプラス影響が大きくなりますが、一方で経営悪化時の一株利益の減少割合も大きくなります。
つまり、ROEが高いことは単にハイリスクハイリターンの経営になるというだけであり、投資家にとってプラスなのかどうかは分からないのです。上記のデータで、高ROE企業の株価パフォーマンスが悪かったのも、経営破綻して株が紙くずと化した企業が多かったせいでしょう。高ROEグループほど、リスクが高かったという統計が、その本質を表していますね。
一方で、株主資本だけで判断するROEではなく、他人資本(借金)も含めた全ての資金の効率性を示す「ROA(Return on Asset;総資産利益率)」という指標もあります。具体的なデータはありませんが、企業のトータルな資金繰りを示す意味では、ROEよりもROAの方が重視すべき指標だと考えられるでしょう。
※注:データは大型株の平均。ほぼS&P500指数と同内容と見てよい。
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