PSRが割安株指標で最も有効!?
バリュー株投資といえば、PERやPBRが有名です。しかしPERには企業の利益変動は大きいこと、PBRには自己資本比率の高さは株価にプラスとは限らないこと、と弱点もあります。
それ以外のバリュー株の選択基準として、PSRという指標があります。PSRとは株価売上高倍率のことで、PERの算出に使う「利益」を「売上高」に変えたものです。
そして低PSR株への投資は、低PERや低PBRよりも有効性が高いという統計データがあります。「ウォール街で勝つ法則
(ジェームズ・オショーネシー)」によると、低PSRへの投資はあらゆるバリュー株の中でも最も高いパフォーマンスを記録したと述べています。
下の表は、同書のデータを参照したものです。PERやPBRに比べて、低PSRが最もリターンが高く、しかも標準偏差(リスク)が低いという結果になっています。逆に高PSR銘柄は最も悪いリターンを記録していることからも、割安株指標として最も優れていると判断出来ます。
割安株指標の比較(全銘柄10分類:1951〜1996年) |
分類 |
PER |
PBR |
PSR |
1 |
14.9% (23.7) |
16.2% (25.1) |
17.6% (19.8) |
2 |
16.7% (22.0) |
15.5% (21.2) |
16.5% (19.4) |
3 |
15.4% (19.9) |
15.1% (20.0) |
16.5% (20.0) |
〜中略〜 |
--- |
--- |
--- |
9 |
10.9% (20.4) |
12.6% (23.4) |
7.8% (19.8) |
10 |
11.0% (24.7) |
10.8% (26.6) |
5.1% (22.7) |
全銘柄平均 |
13.2% (19.5) |
表の見方:対象は米国の時価総額1.5億ドル以上の全銘柄。各指標に従って10分類に分け、1(最割安)〜10(最割高)の年率複利利回りを表示。()内は標準偏差。
PERは企業の利益を元に算出するため、非常に変動が大きくなりますが、企業の売上高をベースに考えるPSRでは、数値の変動が少なく、より正確に割安度を評価できることになります。
例えばトヨタ自動車は、2008年の金融危機の影響で、2009年度決算は赤字に転落しています。2008年度決算と比べて、売上高自体は22%の減少に過ぎませんが、純利益は179%という大幅減(1.7兆円の黒字から4300億円の赤字に転落)になっています。
このように、会社の利益は売上高よりも遙かに変動が大きいので、PERの数字は必要以上に激変する性質があります。特に上記のトヨタのように、赤字転落すればPERは算出不能に陥りますから、指標として機能しなくなります。しかし企業の売上高ベースで考えるPSRなら、利益が赤字でも数値はマイナスにならず、指標として有効に機能することになります。
PSRの問題点〜利益率が高いほど割高になる
しかしPSRにも問題点はあります。薄利多売型の企業では非常に優秀な数字になり、逆に利益率が高い企業ではPSRが高い=悪い数字と出てしまいます。
例えば薄利多売の典型である小売業の覇者、世界最大の売上高を誇るウォルマートは、2010年度の4189億ドル(約35兆円)の売上高ですが、純利益は153億ドルに過ぎません。一方でマイクロソフトは、売上高は624億ドルとウォルマートの約7分の1ですが、純利益は187億ドルとウォルマートを上回っています。この両者をPSRで比較すると、ウォルマートは0.44、マイクロソフトは3.30となります。
ではウォルマートの方がバリュー株として優れているかと言えば、そうとは言い切れません。純利益の多さでも利益率でもマイクロソフトの方が優秀ですし、PERで見てもウォルマートは11.77、マイクロソフトは11.13とMSの方が優秀となります。
つまりPSRは異なる業種間で比べても、正確な判断は出来ないのです。薄利多売の小売業ではPERに比べてPSRは非常に割安に表示されますし、利益率の良いIT企業などでは逆に割高に表示されます。そのため、ウォルマートとマイクロソフトを比較しても意味はなく、(限りなく小売業である)アマゾンとなら、比較することは有効でしょう。ちなみに同期間のアマゾンのPERは73倍と極めて割高ですが、PSRなら2.44とマイクロソフトよりも割安となります。
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