リンク債型ETF(ETN)の仕組みと問題点
当サイトでは、事ある毎に「ETN(リンク債型ETF)」の危険性について述べています。日本国内に上場する外国の株価指数に連動するETFは、実は大半がETNなのです。ここではETNの仕組みと、その問題点についてまとめてみます。
ETNとは(Exchange-Traded Note)の略で、現物資産を組み入れないETFのことです。これらは、運用会社は現物の株式を保有しませんが、対象となる株価指数と値段が連動することを保証されるというものです。
一例として、中国・上海株価指数に連動する「上証50連動型上場投信【証券コード:1309】」について見てみます。本来のETFなら、投資家が購入した代金を元に、実際に上海50指数の組み入れ銘柄を、指数と同じ比率で購入します。しかしこの1309では、現物株式は保有していません。運用会社である野村アセットの報告書によると、資金はベルギーの銀行(KBC
IFIMA NV)や、スウェーデン輸出信用銀行(Aktiebolaget Svensk Exportkredit)などの発行する債券(リンク債)に投資されています。これらの金融機関が、1309の株価が上海50指数に連動する事を保証しているのです。
ETF組成の仕組みを図で表すと、以下のようになります。現物株を取り入れる通常のタイプでは「指定参加者」が実際の株式を買い付けていますが、リンク債型の場合は株式を買い付けません。その代わり、リンク債発行会社の債券を原資として、ETFを組成します。実はこの仕組みにこそ、大きなリスクが顕在しているのです。
例えば、上海50指数の企業の一社が倒産したとすると、通常のETFなら、その一社の株価が無価値になることにより、指数が押し下げられ、損失が発生します。しかし、ETF発行会社(野村アセット等)が潰れたとしても、元資産となる50社の株式があるので、それを売却することで投資家に資金を返済できます。
ETFや投資信託は「信託分離保全」という制度があり、運用会社の資産と投資家の資金は区別する(信託銀行等が管理する)ことが法律で定められており、仮に運用会社が負債を抱えて倒産しても、投資家の資金が補填に回されることはありません。つまり通常のETFは、指数を構成する株式のリスクのみがあるだけで、それ以外の部分で損害は発生しません。
しかしETNの場合、リンク債を発行しているスウェーデン輸出信用銀行が倒産すれば、ETNが投資している債券が元本割れする(※注1)ので、投資家の資金にもその損害が及びます。リンク債も信託銀行等で分離保全されますが、発行元の企業が倒産すれば、元も子もありません。一方で、指数構成企業の業績や倒産などの影響は、指数と価格が連動する債券なので、きっちり受けます(当たり前ですが)。つまりETNは、通常のETFが背負うリスクに加えて、リンク債発行会社の倒産リスクも別途、背負うことになるのです。これを専門用語でカウンターパーティーリスクと呼びます。
日本国内に上場している外国株ETFのうち、かなりの数がカウンターパーティーリスクが顕在する「ETN」なので、投資する際には注意が必要です⇒国内のリンク債型ETF(ETN)一覧表
ギリシャなどユーロ圏の債務危機が悪影響するリスク
国内上場ETNのリンク債発行会社は、ほとんどがヨーロッパの大手金融機関なので、そう簡単にデフォルトすることは無いと言われてきました。しかし、2011年夏にはギリシャの債務危機により、ヨーロッパの金融機関が保有するギリシャ国債の50%棒引きが検討されており、実現すればほとんどの金融機関で損失が発生すると言われます。今後はイタリアやスペインなど、より巨大な国の債務問題も危惧されており、金融機関の損失は更に拡大するリスクも指摘されています。もしかすると、リンク債発行金融機関の経営が傾き、投資家に巨大な損失が及ぶかもしれません。
当サイトでは、日本国内に上場している「偽物のETF」とでも言うべきETNに、長期で投資することはお勧めしません。確かに国内ETNは、売買手数料が安く、また空売りも可能なので、スウィングトレード(短〜中期投資)でなら利用価値はあります。しかし長期の資産運用が前提なら、現物株の裏付けがあり、カウンターパーティーリスクを負わない海外ETFを推奨します。 ※1:リンク債発行企業が破綻すると、どの程度ETFに影響を及ぼすかは、破綻時の負債状況次第なので分かりません。リンク債も「債券」ですから、社債などと同じで株式よりは弁済順位は上であるはずですが、倒産する以上、100%返済されることはありえません。ゼロには成らなくとも、おそらく大幅な債券価格のカットが行われるので、それを組み入れているETNの価格も大きく目減りするでしょう。
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