ブラックマンデーが起きた原因は?
1987年10月19日は、長い株式市場の歴史でも、最も衝撃的な1日となりました。後にブラックマンデーと呼ばれるこの日、ダウ平均株価が前日比で508ドル安、マイナス22.6%という史上最大の暴落を記録しました。しかし、このブラックマンデーが起きた事ついて、明確な原因は分かっていません。一般的には
1.米国の双子の赤字が拡大して景気が低迷していた
2.直前に米国の反対を押し切りドイツが利上げした(世界協調が崩れた)
3.コンピュータの自動売買プログラムが暴落に拍車を掛けた
という3つが挙げられることが多いです。しかし・・・皆さん、この理由に納得行くでしょうか?検索エンジンからこのページへ来られた人は、ブラックマンデーの原因について調べている人だと思いますが、おそらく(多くの文献で語られている)上記の理由に納得が行かないから、ネットで調べているのではないでしょうか?
確かに当時の米国は、85年のプラザ合意(米ドルの切り下げ)からも分かるように、景気は不透明でした。先進国が協調して景気対策を行いたいのに、ドイツが自国の情勢を優先して利上げしたことも、市場心理を悪化させたことでしょう。
しかし、米国の双子の赤字は以後もずっと続いており、87年当時だけ特に酷かったという訳ではありません。それに米国の赤字は、ある日突然起きた事ではありませんから、10月19日の大暴落にピンポイントで影響したとは考えられません。
また、世界が為替で協調体制を築いている期間より、そうでない期間の方がはるかに長いです。世界の景気(≒アメリカの景気)よりも、自国の情勢を優先するのは、何処の国でも当たり前です(米国にはプラザ合意で一度恩を売っていた訳ですし)。よって、巷で語られているこれら二つは、ブラックマンデーの直接的原因とは言えません。
自動売買プログラムが原因なら、近年の方が暴落率が高いはず
では、当時流行り出した自動売買プログラムについてはどうでしょうか?確かに、一定ラインの下落を超えたら自動で損切りするようなプログラムが増えたことは、相場が一定方向へ傾きすぎる原因になるでしょう。しかし、ブラックマンデーのマイナス22%という暴落率は歴代でもダントツであり、自動プログラムが原因なら、他にも大暴落した日が多くあってもしかるべきでは?
例えば、NYダウ平均株価が最大の「下げ額」を記録したのは、2008年9月29日です(777ドル安、マイナス6.98%)。この時はブラックマンデーとは違い『金融安定化法案が、米下院で否決された(※注1)』という、明確な原因がありました。同月中旬にリーマンブラザーズ破綻やAIG国有化などの金融不安が発生しており、それがこの日にピークに達したのです。 |
NYダウ歴代暴落率トップ5 |
日付 |
暴落率 |
1987年10月19日 |
-22.6% |
1929年10月28日 |
-12.8% |
1928年10月29日 |
-11.7% |
1929年11月6日 |
-9.9% |
1899年12月18日 |
-8.7% |
トップ10以下 |
2001年9月17日 |
-7.1% |
2008年9月29日 |
-6.9% |
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また21世紀以降で、上記「米下院ショック」よりも下げ幅が大きかったのは、2001年9月17日です。この日は、あの9月11日の米同時多発テロにより休場していた株式市場が、4営業日ぶりに再開された日です。当時のアメリカ社会の混乱は、皆さんもご記憶でしょう。この日、多くの市場参加者が株を投げ売りに走ったのは、心理的に十分納得いくことです。
前者は「100年に一度の金融危機」、後者は「人類史上最悪のテロ」と呼ばれる大事件です。にも関わらず、これらの下げ幅は(暴落の理由が明らかでないはずの)ブラックマンデーの3分の1ほどしかありません。さらにいうなら、この間の20年で、世の中に自動売買プログラムは更に多く普及していますから(※注2)、ブラックマンデーの方が暴落率が大きいというのは、尚更不自然なはずです。
以上の検証から、ブラックマンデーには明確な原因は見当たらず、たまたま大暴落しただけだと結論付けられます。
「そんな無責任な・・・」と思われるかもしれませんが、マーケットの原理原則からすれば、当然のことなのです。明確な理由があろうが無かろうが、多くの投資家が投げ売りを始めれば、暴落は起きるのです。逆に言うと、どんなに経済不安や地政学リスクが高まっていても、多くの投資家が株を保有したままでいれば、暴落など起きないのです。
日本国債だって「理由も無く」暴落するリスクは拭いきれない
このことは、現在の日本の投資家には、極めて重い教訓となるはずです。現在、日本は対GDP比で世界最悪の政府債務であるにも関わらず、長期金利は世界最低〜つまり買い手過多の状態です。このことを盾に、多くの経済学者が「日本の国債は世界で最も信任されている」とうたい、国債暴落説を完全否定しています。それどころか、日本国債に警笛を鳴らす人達に対して「そんなの起こるはずがない」「暴落説を唱える奴はオオカミ少年だ」とこき下ろす輩も少なくありません(※注3)。
しかし、彼ら国債安全信者の言い分が、完全に嘘っぱちであることは、ブラックマンデーの教訓から明らかです。明確な理由が無くとも、売りたい人が一定数増えてくれば、自動売却プログラムを誘発し始め、やがては根拠無き大暴落へと繋がるのです。国債は株式と同様、市場で自由に売買されるのですから、全く同じ事が起きるリスクがあるのです。
国債の暴落は、安全性が高かろうが低かろうが、原理的には起こりえるのです。そして、政府の債務残高が増えていけばいくほど、投資家の不安心理は高まり、暴落リスクも高まっていくのです。 ※注1;金融安定化法案は、サブプライム問題を作った張本人である金融機関をを助けるような内容でしたが、公的資金の注入なくしては金融の回復は望めず、国民の反対が強くとも法案は成立せざるを得ないだろうと、市場では見られていた。 しかしアメリカの下院で法案は否決され、市場はパニックに陥った。
※注2;かつては自動売買は機関投資家だけだったが、近年ではPCの性能向上やIT環境の整備により、個人投資家にも広まっている。
※注3;国債暴落を完全否定する輩は、日銀が量的金融緩和(国債買取)を否定する姿勢を後押しすることが目的の、いわゆる御用学者。若しくは、自らが国債を大量保有しており、暴落されると困るが故にポジショントークしているだけ。
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